スクラムの三本柱と価値基準(2)

三本柱と価値基準の関係

前回の投稿ではスクラムの三本柱と価値基準の関係について整理しました。
今回は、 価値基準 に焦点を当てて、具体的にそれぞれの価値基準への理解と育て方を記載しようと思います。

価値基準のおさらい

スクラムガイドに記載されている価値基準は以下の5つがあります。

・勇気(Courage)
・尊敬(Respect)
・公開(Openness)
・集中(Focus)
・確約(Commitment)

まずはそれぞれの内容を確認していきましょう。

勇気(Courage)

スクラムチームのメンバーは、正しいことをする勇気や困難な問題に取り組む勇気を持つ。

困難な問題に取り組む勇気はなんとなく想像できると思いますが、正しいことをする勇気は、様々な解釈ができると思います。

  • チームのメンバーが他のメンバーに無礼な態度を取ったときに勇気を持って指摘できるか。
  • 分からないことを勇気を持って質問できるか。

いくつか例を挙げましたが、シンプルに「やるべきことをやっているか」と考えるのが良いかと思います。
自分で「やらない理由」を見つけて行動しないのは、勇気という価値基準に違反している訳です。

尊敬(Respect)

スクラムチームのメンバーは、お互いに能⼒のある独⽴した個⼈として尊敬し、⼀緒に働く⼈たちからも同じように尊敬される。

私自身、尊敬という日本語自体が大袈裟な気がしており、そこがこの価値基準を体現しづらい要因の1つかなと感じています。
なので、 尊敬 ではなく 尊重 として考えると具体的な行動に移しやすいと思います。

  • チームのメンバーの意見が「自分の意見と合わない」場合でも、相手の意見を尊重して議論できるか。
  • チームのメンバーの働き方や仕事観に関する価値観を尊重しているか。

「メンバー全員を尊敬しなければならない」と言うと、そんなの無理と思ってしまいがちですが、
「相手の意見や価値観を尊重しましょう」ならば、体現しやすいのではないかと思います。

公開(Openness)

スクラムチームとステークホルダーは、作業や課題を公開する。

これは三本柱の 透明性 とも似ているかと思いますが、その名の通りチームの活動は隠さずに公開しましょう、ということです。
ケアレスミスなどは隠して穏便に済ませたいものですが、そう言うこともきちんと公開し、チームの状況を正しく伝えましょう。

集中(Focus)

スクラムチームは、ゴールに向けて可能な限り進捗できるように、スプリントの作業に集中する。

これは理解するのは単純かと思います。スプリント期間中は、スプリントプランニングで決定したタスクに集中し、スプリントゴールに向けて頑張りましょうと言う解釈で良いと思います。

確約(Commitment)

スクラムチームは、ゴールを達成し、お互いにサポートすることを確約する。

これが一番理解しやすく、同時に、誤解されやすい(スクラムチームを苦しめやすい)価値基準だと思います。
確約する と言う言葉の重みのせいで「何が何でもスプリントゴールを達成しなければならない」と勘違いされやすいのです。

この点については様々なイベントやブログなどで議論されていますが「チームはスプリントゴールに向けて全力を尽くすことを確約する」という意味で捉えるのが今のところ一番良い解釈かなと感じています。

つまり、ゴールを達成するために 無理な残業ルール違反した作業 をするのではなく、デイリースクラムなどのイベントや日々の作業の の中で「全力を尽くす」ことを確約するのです。

価値基準の関連性

それぞれの価値基準についておさらいしましたが、5つの価値基準は独立しているのではなく、関連があると考えています。
それと同時に、順序性もあると考えています。(これはスクラムガイドに記載されていないので私の解釈です)

例えば、「チームの状況を正しく 公開 」するためには 勇気 が必要になると思います。そしてその 勇気 をチームが持つためには、チームメンバーがお互いを 尊重 し合えているかが必要になります。

このように、価値基準には関連性・順序性があるので、特にスクラムマスターはそれらを理解しておくことが重要だと考えます。

価値基準には関連性・順序性を整理すると上記のようなイメージになると思います。
尊重し合えるから勇気が生まれ、チームの活動状況を公開できるようになります。
チームの活動状況が公開されると透明性が高まり「今やるべきこと」を発見しやすくなります。
それが集中につながり、最終的にはスプリントゴールに向けての確約につながると思います。

ちなみに、 尊重勇気 は相互関連性もあると思います。相手を尊重するにも勇気が必要になる場面はあるためです。
特にこれは「先輩が後輩の意見を尊重する」場面に言えるのではないでしょうか。

価値基準の育て方

価値基準の関連性・順序性が整理できれば、育てていく順番もその通りになります。
つまり、まだ誕生したばかりのスクラムチームであれば、 お互いを尊重 し合うことの大切さをスクラムマスターが説いていくことが重要です。

既に数スプリントを経験しているスクラムチームで、なかなか 確約 ができていないとスクラムマスターが感じるのであれば、価値基準のどの部分が足りていないのかを分析し、そこから着手するのが良いでしょう。(たいていの場合は 尊重勇気 になるかと思いますが)

具体例で価値基準の大切さを示す

スクラムマスターがいくら価値基準の大切さや関連性・順序性を理解していても、チームのメンバーがそれを体現できなければ意味がありません。
しかし価値基準は抽象的な概念であるため、なかなか伝わりづらいことも事実です。

そこで私がお勧めする方法は、具体例を挙げて価値基準の大切さを示すワークを実施することです。
ちなみに具体例は、なるべくそのチームで実際に起きた出来事からピックアップするのが良いでしょう。(その方が当事者意識が強くなります)

例えば「モブプログラミング中にAさんがBさんに『こんなのも分からないのか』とため息をついた」という出来事を挙げて、
『この行動は価値基準の どれに違反していますか?』 と問いかけましょう。

すると 尊重 というのが出てくるでしょうし、モブプログラミングなので C さんの存在もあったはずで、 勇気 も出てくるでしょう。
(C さんは 勇気 を持って A さんの言動を指摘するべきだった)

このように、良くない具体例を挙げ、価値基準のどれに違反しているかを考えてもらうことで、逆説的に価値基準の重要性を理解してもらえます。

最後に

スクラムマスターにとって価値基準は抽象的で指導しづらいものですが、スクラムチームビルディングのためには絶対に外せないポイントです。
まずはスクラムマスター自身の行動を振り返り「価値基準に違反していないか」をチェックし、それを踏まえてチームにアクションを起こしていきましょう!